フランス語会話の勉強を始めた頃には独りフランスへ足を踏み入れるなんて思ってもいなかった。「還暦の思い出として」軽い気持ちでの動機、しかし モンバール行きの様々な手続きをしていくうちに、もっとしっかりした目標を立てなくては・・・。 まず第一には「語学」第二「フランス人の生活」第三「観光」と私なりに位置付けをして準備を始めた。日本からフランスのモンバールまでの長時間の移動もどうにかクリアーしてモンバールの駅でクローディンに会えた時、この旅の第一関門を突破した喜びで一杯になった。しかしこの先第二、第三の関門が控えているのだろうと思ったが長旅の疲れと根っからの楽天的性格の私はクローディンの用意してくれた寝室で不安を抱く事すらなく眠ってしまった。

そして10月18日、日曜日、「今日からが本当の始まりなのだ。」と気持ちを引き締めた。 起床午前7時、朝食後9時から12時までフランス語の個人レッスン。3時間の個人レッスンは正直大変だった。私においては集中力が続かない事が一番の問題であった。クローディンに勉強の内容はお任せしようと私は日本から持参した教材はあえて提出しなかった。先生は「何を勉強したいの?」とまず質問されたので、聞き取り、発音、文法、話し方(会話)と思いついた全てを言った。これだけ沢山の事を一週間で修得するなんてと私は思ったが先生は涼しい顔で理解してくれて勉強はすぐ始まった。

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話し方(会話)の勉強は「あなたの家族のことでも、好きなことでも何でもいいからフランス語で話してごらんなさい。」と先生はおっしゃった。私は一生懸命話した。勿論、文法的に間違っていても話すことが第一なのだと・・・。先生は私の話を速記者のごとく書き始めた。そして私の話したフランス語を元に正しいフランス語を文法も交えて解説してくれた。話し方の勉強は、先生と一緒に観光した所の感想、映画鑑賞、テレビの感想、独り街歩き、マーケットなどの買い物など日々の出来事を話した。

また発音については、私の希望はきれいなフランス語で話し、本を読み、詩や歌を暗誦したいと大それた事を言った。先生は「そうね。」と言いながら本棚の中を調べ一冊の本を出して来た。「悲しみよこんにちは」サガンの本だった。
「初めの所から読んでごらんなさい。」

「きれいなフランス語の発音で詩や本を読みたいなんて言わなきゃ良かった。」後悔が頭をよぎる中、朗読が始まった。知らない単語ばかりの文章をたどたどしくゆっくり読み始めていると、先生は腕を組み目を瞑って私の発音だけを聞いているようだ。

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時折いやしばしば先生は意味不明の言葉の発音に本を覗き込み発音を直してくれた。1〜2ページの本を読むだけでこんなにも疲れれるのもだとは思わなかった。

その時先生が「お茶にしましょう。」と言ってくれた。
「やったー!」
勉強時間の半分が過ぎ、途中休憩タイムになったのだ。15分間先生と一緒にお茶とお菓子を頂き、頭を休めて後半の勉強に向かった。この様に滞在中、日々3時間の勉強は続いた。

因みに文法はデルフ初級の問題集をした。これも初見で対応するので還暦オバサンには大変だった。フランスは間接照明が多く部屋が日本のように明るくない。 テキストの小さな字はフランス語で書いてあるだけでも理解が難しいのにその上暗いとなればお手挙げ。テキストに顔を近付けると先生は「全体を見て、全体 を」と言う。ここでフランスの生活習慣を知ったのだ。

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「先生!暗くて字が見えません!」
先生はすぐ様スタンドを点けてくれた。しかしフランス語の字が読めても正解には繋がらなかった。先生の「全体を見て、全体を」その言葉の意味が理解できたのはそれから1〜2日後のことだった。問題を解く時、私は知らない単語や意味が分らないとその場で苦戦している。そうではなく問題の周りの写真や見出しあらゆる情報を捕らえて問題を解く様先生は教えてくれたのだ。

聞き取りの勉強もCDを何度も何度も繰り返し聞かせてくれた。ヘレンケラーがWATERに行き着くように私もサリバン先生
いやクローディン先生のお蔭で少しづつ聞き取りも身に付いていった。

クローディンの美味しいお料理、フランスでの様々な生活体験、世界遺産観光この旅の中にはまだまだ書ききれない程沢山の宝ものが詰っているが、自分自身で体験することがこれほど人生を豊かにするとは思っても見なかった。

正に還暦の素晴らしいプレゼントになった。

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